2004/05/24 卒論指導

010149k 松本千穂

競馬の目的と役割

@     戦前[i]

馬は昔、戦争時の有力な戦力であった。そのため、競馬で選ばれた優秀な種牡馬や繁殖牝馬がまた子孫を残していくのは、軍馬確保のためにも、理に適っていたということになる。それを裏付ける要素として、旧競馬法第1条の「馬ノ改良増殖及馬事思想ノ普ヲ図ル事ヲ目的トスル民法第34条ノ法人ニシテ主務大臣ノ認可ヲ受ケタルモノハ本法ニ依ル競馬ヲ行フコトヲ得」という条文と、(改正後の旧競馬法第10条)日本競馬界ハ法人トシ馬ノ改良増殖及ビ馬事思想ノ普及ヲ図ルヲモッテ目的トス」という条文の「改良増殖」という言葉に表されている。

A     戦後

戦後は、軍馬と競争馬という関係がなくなっていった。日本経済も、次第に力を取り戻していき、機械化、電化が進んでいくなかでも、早場米単作地帯[ii]の農村や、寒冷地の農耕地帯においては、馬の需要が継続し農業用や輸送用の馬が必要とされた。そのため、それらの仕事に従事する馬を改良するために、競馬が利用されるようになったのである。軍用から畜産へとその結びつきを変えたということである。

 サラブレッドがなぜ選ばれたのかというと、サラブレッドは単に競争のためだけではなく、馬の改良の基礎となる基本的な種類[iii]であったということが挙げられる。競馬のための優れたサラブレッドの生産により、馬全体の改良が可能であろうと考えられたようである。

 この畜産との結びつきが始めて法律化されたのは、昭和29年の日本中央競馬会法による。会法第1条では「この法律は、競馬の健全な発展を図って馬の改良増殖その他畜産業の振興に寄与するため、競馬法により競馬を行う団体として設立される日本中央競馬会の組織及び運営について定めるものとする」と規定された。この法案が、国会を通過する過程においては、従来の競馬と畜産の関連性に加えて、競走馬の生産、育成は畜産の分野においても、最も高度な技術を要するものであり、これらの技術の普及は、畜産全体に大きく貢献することが述べられたという。また、歴史と伝統と国際性を有する競馬の存続を図るためにも、国家的事業である畜産振興との連携を目指すという政策的な配慮にも触れたものであった。

 この畜産振興を積極的な形とするため、競馬の収益を国家的事業である畜産事業そのものに還元することにも考慮が図られた。その結果、国庫納付金の畜産事業振興費等への充当に関する条項(日本中央競馬会法第36条)が追加され、国庫納付金の4分の3を畜産振興に当てるという制度が完成されたのであった。

 

 

国庫納付金について

@     国庫納付金

日本中央競馬会法第27条

「1 競馬会は政令の定めるところにより、競馬法第5条の規定により販売する勝馬投票券の販売額から同法12条第5項の規定により返還すべき金額を控除した残額の100分の10に相当する金額を国庫に納付しなければならない。

2 競馬会は、毎事業年度、政令の定めるところにより、余剰分の2分の1に相当する金額を国庫に納付しなければならない。」

 

第1項が第1国庫納付金、第2項が第2国庫納付金といわれるものである。

 

 

 

 

参考文献

日本中央競馬会編「競馬百科」P365〜367



[i] 戦前の競走馬は不遇の時代で、最高の栄誉とされる日本ダービーを勝った馬でさえ、戦争にかりだされ、その後行方不明になったというケースが多い。

[ii] 早場米(ハヤバマイ)普通の米と時期をずらして生産される米。

[iii] 馬にはいくつか種類がある。日本では、軽種、重種、中種、在来種と分けられている。